chiha memo

漫画「ちはやふる」の粗筋と伏線と名言と感想の個人的メモ

第175首 いつか”感じ”なくなる

若宮は自身が出演したテレビ番組を観ようともせず、自室で寛いでいた。明星会はどうせ昔と変わらないのだろうからとまだ行っていないが、伊勢先生がくれた彼の著書をふと手に取る。

 

千早と太一は綾瀬邸の居間で視聴。画面に映る太一に驚愕する千早。原田先生、新、須藤などもそれぞれテレビを見て驚いている。太一は千早母が出してくれた親子丼を頬張り、何処吹く風。

周防の聴き分けの能力は、生まれつきと、環境から得たものだった。専任読手七名全ての百首の読み上げデータを揃え、自宅でずっと流していたと言う。但し、上の句の頭だけ。テレビの若宮が、いつものイケズで突っ込む。

「音とつながってても 札とつながってないのは そのせいやったんですねえ 周防さんの天才ぷりの凄まじさときたら」

若宮の聴力は、一般人と大差ないと紹介される。目線の検証では畳中央から焦点が動いていない。

「読まれた札に視点を合わせることなく 一枚だけを払う正確さ そして速さ クイーンの強さの秘密は 名人とはまたちがうところにありました」

そんなテレビの解説に、太一が補足。

「見てはいないんだけど 若宮さんは目がいいんだと思った 目と手の整合作用がすごい 運動神経がすごいってことになんのかな ピアニストが目を閉じてもピアノ弾けるみたいな 見なくても もう札のありかがわかるし そこに届くように自分の身体を正しくコントロールできてる 訓練でしか身につかねえ」

若宮が一人で練習していることについて問われ、答えている。

「うちのそばにはいつも 百枚の札がいてくれますので さびしいと思ったことはありません」

テレビでそう発言しつつ若宮は、伊勢に著書の内容が理解出来ないと言いに行かねば、などと考えていた。

「箱の中でずーっと 開けても開けなくても なんやらかんやらおしゃべりしてるのが札です それが聞こえてしまう 箱を開けずにいられましょうか うちは札はみんなこんくらいの小さな神様みたいに見えてます みんなとってもかわいくてわがままです」

若宮の「神様」という言葉が、千早の心を捕えた。テレビで若宮が札を胸に抱いている。

「この子たちと この札たちと 離れずに生きて行くのが 私の夢です」

 

番組が終わり、千歳が口を開く。

「この子 なんかすごいねー 愛がすごいの伝わってくる 千早 かるたってそんなおもしろ……」

千早が急に立ち上がり、母に向かって訴え掛けた。

「お お母さん 私 クイーン目指したい 勉強もがんばるから 必死にやるから クイーン戦に出たい 両方がんばるから」

クイーンになってどうするのかと頭を抱えて溜息をつく母に、千早は言い募る。

「…… お母さんは私に なんになってほしいの? 看護師さんとか本屋さんとか べつに具体的にないでしょ? なんかこう ふんわり し…幸せになってほしいってくらいなもんでしょ?」

大きな声で反論する千早母。

「ちがうわ 子供には 高確率で幸せになってほしいのよっ」

母の迫力に言葉が出ない千早と千歳。太一も黙って聞いている。

「…… そのくらいのシンプルな望みなのに なんでうちの子たちは二人とも 大丈夫かどうか怪しい道ばっかり行って……」

太一は千早母に止められつつ食器を洗いながら、助け船を出す。

「おばさん 千早には周防名人に近い耳の良さがあります でも聴力にもピークがあって 千早はいまかもしれない いつか”感じ”なくなる……」

言うだけ言って、太一は挨拶して帰って行く。千早母の胸に引っ掛かる――『いつか”感じ”なくなる』『子供には高確率で幸せに…』

「…… 千早 できるの? 千早にそんな 両立とか…… お財布的にも 浪人してもらっちゃ困るのよ?」

千早が以前、駒野に教えられた物事の上達ポイントは四つ。目標は具体的に、時間は集中的に使う、第三者に反省点の指摘を受ける、居心地のいい場所から出ていく。千早は具体的な目標を掲げ、両立を宣言。

「次の模試でどの大学かB判定もらう 勉強時間はかるたとキッチリ半々にする せ 先生たちに毎日……添削してもらいにいく …… ちがうかるた会にも修行にいく」

千早は玄関を出て、太一の背中に声を掛ける。

「ありがとうね ありがとう ありがとうね 太一」

太一は「なにもしてねーよ」と手を振り、去って行った。

いつか”感じ”なくなる

千早は手を振って見送りながら決意。

やりたいことを思いっきりやるためには やりたくないことも思いっきり やるんだ

 

ちはやふる(34) (BE LOVE KC)

ちはやふる(34) (BE LOVE KC)

 

 

memo

第155首第161首で収録していた番組の放送日。白波会は先生と奥様だけなので自宅らしいが、南雲会、東大かるた会、富士崎などはかるた会単位で集まって見ている模様。他に若宮祖母と母にお手伝いさん、綾瀬家では母と千歳も一緒にテレビに見入っている。太一が来て、うっきうきで太一にのみ親子丼を出す母w ピアニストの例えは分かり易い。周防もそれなりに努力していたことが明らかになり、周囲の目も多少変わればいいね。

登場した札は、音サンプルとして「さびしさに」。小さな神様~と言っている詩暢の背景に、「なにわえの」「あさぼらけ・う」「かささぎの」「おくやまに」「はるすぎて」「なげけとて」。

詩暢の「神様」は札で、千早は第166首で新のことを「神様みたいに思ってた男の子」と過去形で言及。詩暢の「離れずに生きて行く」に対して、千早の今後はどうなるのか。

千早の修行先と言っても、勉強時間や交通費の問題もあり、太一も関わっている東大かるた会くらいしか宛てがなさそう。白波会の千早が翠北会で受け入れて貰えるか怪しいし、北央は男子校だからどうだろう。太一は千早には努めて淡々と接しているという印象。第62首の菫の見立て通り「かるたに真剣になることで伝わるのを待ってる」のだろうか。「いつか”感じ”なくなる」が繰り返し出て来たのは、次のクイーン挑戦を回避している猶予が無いのを強調しつつ、じきに恋愛感情も薄れて行くだろうと自らに言い聞かせているような描かれ方。

机先生が第106首で言った「かるたを思いっきりやれるのはいましか」という状況かもしれない千早。最後のモノローグも第37首で出た彼の名言。しかし、やりたくないこと=勉強って、先生になりたい人が言ってちゃ拙いだろ。「看護師さんとか本屋さん」は、病院経営の真島家と新のバイト先を連想させる。何故それを挙げた? 上達ポイントの「居心地のいい場所から出ていく」は先日の新みたいだし、どちらもチラつかせて読者を躍らせる気満々だなあ……